Slow Photo Life

Storage of 『W』

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2008年6月16日 日本経済新聞 「こころの玉手箱」より~森山大道のPEN W~

 僕の撮影スタイルはこの四十年来、ほとんど変わっていない。路上でのスナップ、ピントは二の次。ファインダーもあまりのぞかない。喧噪の繁華街や異臭漂う路地をさまよいながら自分の感覚が反応した瞬間、何ものかに向かってシャッターを切る。
 とりわけ若いころは、百メートル歩くたびにフィルム一本という勢いで、機関銃の連射のごとく撮り狂った。
そんな僕の生理にぴったり合ったのが、オリンパスペンだった。むしろ、このカメラによって僕の撮影スタイルは確立したといった方がいいかもしれない。
 実はこれは二代目で、初代が壊れたのを知った写真家・長野重一さんから一九六八年にいただいた。『朝日ジャーナル』の社外ディレクターだった長野さんは若手の起用に熱心で、僕もお世話になった。その後、中平卓馬、多木浩二らと写真同人誌『プロヴォーク』に参加した時代の『同伴者』はこのカメラだった。
 手のひらの延長の感覚で撮れるコンパクトさ。目立たず、人ごみで撮影しても警戒心を抱かれにくい。ワイドレンズだから大体の距離さえ合わせておけば、ピントをいちいち気にする必要がないところも、路上スナップに向いていた。
 もう一つ、有り難いのが『ハーフサイズ』といって、フィルム一枚を半分に分割して写す機能だった。三十六枚入りで倍の七十二枚撮れるわけだ。仕事もろくにないのに、やたらとフィルムを使う僕にとって、フィルム代の節約は大きかった。
 それより以前、本当にフィルムが買えなかった時期は、映画を撮る知り合いのところへ行ってモノクロの切れ端をもらい、自分で空のパトローネに巻き付けていた。今は知らないが、当時の映画用のフィルムは感度が低く、曇りの日などにばんばん速写していると思い切りぶれる。プロヴォークを象徴する『アレ、ブレ、ボケ』と呼ばれた表現は、僕の場合、観念的にひねり出したわけではなく、こういう実践上の必然から生まれたものだった。
 去年、久しぶりに新作『ハワイ』シリーズの一部にこのカメラを使ってみた。適度に粗いレンズの描写力が実に都合よく、暗い、いかがわしいハワイを撮ろうという狙い通り、グルーミーな味のプリントが出来上がった。まだまだ現役の相棒だ。
by kawamutsukun | 2013-04-20 00:00 | other | Trackback | Comments(6)
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Commented by m_leica at 2013-04-15 16:40
こんにちわ。
森山大道氏のミニ・コメント、興味深く拝見しました。
kawamutsukunさんは、この「Pen-W」を
今も現役でご使用されていらっしゃるんですか?
もしそれであれば、興味深いです。
Commented by tajiri8jp at 2013-04-16 21:51
PEN FT は持ってますが、これも欲しい1台です。
Commented by apertura28 at 2013-04-16 21:53
kawamutsuさんの話かと思いビックリしましたが、森山大道さんなんですね。私の父はヤシカのニ眼からpenだったので、私の最初のカメラは勝手に持ち出したpenでした。当時はいまいちな写真と思っていましたが、技術の問題だったんでしょうね。
Commented by kawamutsukun at 2013-04-22 18:28
*m_leica様
これは私のではなく、友人がビックリする価格(安い!)で手に入れた物で、興奮している気持ちを抑えるべく入った珈琲ショップで撮ったのです。
友人が買わなければ私が買いました(笑)
Commented by kawamutsukun at 2013-04-22 18:31
*tajiri様
私も欲しい一台(でした)が、今までは目玉が飛び出るような値段でしたので手が出せませんでしたが、この個体はおそらく、普通に見かけるWの半額程度ではないかと思います。
フィルムの性能が上がった今なら、存分に性能を引き出せると思います。
Commented by kawamutsukun at 2013-04-22 18:34
*apertura28様
以前見つけた森山氏の話を思い出したので載せてみました。
Wは少し前なら6ケタに届くプライスが付いていましたが、最近は大分こなれて来ましたね。
それでも他のPENの数倍はしますから、私はPEN-S辺りがちょうどいいかな。